2008年03月05日

禮器碑

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今回は久しぶりに「臨書のすすめ 隷書」ということで、『禮器碑』です。

テキストは今回も二玄社『中国法書選』として話を進めます。


一般には『禮器碑』の呼称が最も有名だと思いますが、『韓勅碑』という呼び方をされる事もとても多いですね。

「曹全に対して韓勅は」

などといった感じの言い回しは頻繁に出てきますので、覚えておくと良いと思います。


実はこの『禮器碑』に関しては、ここで扱うべきか否か、随分と悩みました。

と言うのも、正直に言ってこの『禮器碑』、初学者の独習はかなり厳しいと思うからです。(何だかそんな話ばっかりですが・・・)


とにかく用筆がとても複雑で、その点に於いてはこれまでここで紹介してきた『曹全碑』『乙瑛碑』『史晨前後碑』とは比較になりません。

用筆の複雑さだけが書の優劣を決めるわけではないというのは言うまでもありませんが、ある意味ではこの『禮器碑』は他の八分隷とは全く異質の存在だと言えるでしょう。

それでもこの『禮器碑』は隷書の典型として筆頭に挙げられる事も多いですし、黙って放っておくわけにもいかなそうなので、今回しぶしぶ取り上げる事にしました。

が、

やっぱりどうしたものか、困りつつ書いています(苦笑)


これまでここで取り上げてきた隷書と比較した場合、初学者の方が最も大きな違和感として感じるであろう点は、恐らくその線の細さだと思います。

例えば『乙瑛碑』と比較した場合、極めて繊細な線である事が分かると思います。

更には非常に繊細な筆圧の変化があり、1本の線に盛り込まれている表情が極めて多彩です。

それでありながら、全体として見た時に、少しも技術臭さを感じさせないのですから、その表現力は正に驚異的と言って良いでしょう。


独習する場合、先ずはその繊細で多彩な用筆にどこまで気付く事が出来るのかが問題になると思います。

これまで紹介してきた八分隷と同じつもりで見ていたのでは、いつまで経っても気付く事すら出来ないと思いますので、心してかかりましょう。


『禮器碑』の用筆、実はチョ遂良(チョの字が表示出来ません)の『雁塔聖教序』とよく似た部分があります。

少々乱暴な考え方ながら、私はこの『禮器碑』をやる前に『雁塔聖教序』をやっておくと良いと思っています。

歴史的順序を全く無視した考え方ですが、いきなり『禮器碑』をやるよりは間違いが少ないと思うからです。


ですが・・・

考えてみたらこのブログではそもそも『雁塔聖教序』をまだ紹介していませんでした(汗)

う〜〜ん・・・

思いつくまま何の計画性も無く今日まで書き続けてきてしまったツケが回ってきましたね(汗)


別の方法を考えましょう・・・(汗)


そうだ!

こんな時には双鉤に取ってみる、というのも一つの方法です。

双鉤に取ると、ただ見ているだけでは気付きにくかった部分にまで自然と目が届きますから。

是非一度やってみて下さい。


次に、仮に気付く事が出来たとして、それを再現出来るかどうか、という話になりますが、これこそなかなか難しいと思います。

思いますが、諦めてしまってはそこで話が終わってしまいますので、何とか頑張って下さい。

最初は大きめ(半紙に2文字大)に書いて練習した方が良いと思います。


ここではこのブログで再三繰り返してきた

「同速度、同筆圧」

の原則だけでは全く太刀打ち出来ませんが、それでも

「同速度」

という意識は持ち続けて下さい。


ついつい用筆の繊細多彩な部分にばかり目がいきやすいのですが、そうすると結果としてヒョロヒョロナヨナヨとした生気の無い線になったり、字の骨格がグニャグニャになったりします。

かと言って

「同速度」

の意識を忘れて適当に筆の勢いに任せて線を強くしようとしても、それではグニャグニャ度合いを増すだけになりますから、気を付けましょう。(線の強さや深さは筆の速度で出すのではありません。)

グニャグニャでは『禮器碑』になりません。

『禮器碑』の本当に凄いところは、これ程繊細で多彩な用筆でありながら、その骨格は極めて厳正で強靭である、という点なので、そこを忘れてしまってはいけません。

この骨格の強さがあるからこそ、これ程の繊細な線でありながら、技術臭くも弱々しくもならないのです。


個人的な意見としては、この骨格の強さを手にすることが出来るのであれば、用筆の妙については後回しで構わないとさえ思います。

尤も、骨格と用筆と、それ程単純に切り離せるものではありませんが、用筆の妙に酔い過ぎて惑わされてはいけません。


碑側や碑陰も含めるとかなりの多字数なので、じっくり学ぼうとすると相当の時間がかかるはずですが、時間をかけた分だけ前に進むと考えれば、かかる時間も手間も、また楽しさの一つというものです。

思う存分楽しんで下さい。


というわけで、しぶしぶ『禮器碑』でした(苦笑)

それではまた。

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初めてこのブログを読まれた方へ。

いらっしゃいませ。

あれこれ思いつくままに書いているので、書道独特の専門用語や人名などの固有名詞に関しては、その都度解説を付ける事はしていません。

初心者の方や学び始める以前の方には難解な部分も多かったかもしれませんが、お許し下さい。


「一言書いてみたいんだけど、みんなに読まれてしまうコメントに書くのは何だか気が引ける・・・」

という方や、

「何だか下手な事を書いたら説教されそう・・・」

という方、また、通信添削について御質問のある方は、下記のアドレスまで御意見御質問をお送り下さい。

誹謗中傷を目的としたような常識に反するもの以外、お返事させていただきます。

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定期的にアップ出来ているわけではありませんが(正直言ってサボりがちです)、よろしかったらまた覗きにいらして下さい。

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2007年01月25日

史晨前後碑

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ほぼ3ヶ月ぶりのアップになってしまいました。

ごめんなさい。

実は昨年10月に子供が産まれたため、色々と多忙になり、正直な話、ブログのアップにまで手がまわりませんでした。

恐らく殆んどの読者の皆さんが

「このブログ、止めちゃったらしいな」

と思って離れてしまったと思いますが、また一から出直すつもりでやっていこうと思っていますので、よろしくお願いします。


さて、久しぶりのアップのテーマは「臨書のすすめ 隷書」ということで、『史晨前後碑』です。

テキストは今回も二玄社『中国法書選』として話を進めます。

『史晨前後碑』については、「何から始めれば?隷書の場合」の回でも少し取り上げたので、内容が重複してしまう部分もありますが、お許し下さい。


このブログではこれまで、「臨書のすすめ 隷書」として、『曹全碑』と『乙瑛碑』を取り上げてきました。

皆さんの中には

「今度こそ『禮器碑』でしょ」

と思われた方も少なくないと思いますが・・・

まだです(笑)


ついつい派手なものに飛びつきたくなるのが人情ですが、そこは敢えて後回し、派手なものは後回しです。


左右に伸びやかに大きく広げた『曹全碑』、力強くどっしりと構えた『乙瑛碑』、これまでに取り上げたこの二つの碑に比べると、今回の『史晨前後碑』は何とも地味な印象を持つかもしれません。

伸びやかさにしても、力強さにしても、いかにも中庸な感じがして、一見したところパッとしないですよね。


ところがここがポイントです。


中庸でいながらも、それでいて唯一無二の世界観を放つ、というのはそう簡単に出来る芸当ではありません。


皆さんが実際に臨書をした場合、『曹全碑』『乙瑛碑』『史晨前後碑』の中で、最もサマにならないのは、恐らくこの『史晨前後碑』でしょう。

『曹全碑』や『乙瑛碑』のように特徴が明確なものは、その特徴さえ真似する事が出来れば、自分で書いたものも一見何となくそれらしく見えてしまいます。

実際にはそれらしく見えてしまっているだけなのですが、その特徴に自分の臨書の甘さが誤魔化されてしまうのです。


ところがそういった際立った特徴が無いこの碑の場合、誤魔化しが効きません。

線自体の強さや結体の確かさなど、本来求められるべき点がそのまま自分の書いたものとして映し出され、それらの弱さを誤魔化してくれるものがありません。

臨書に少しでも甘さがあれば、それがそのまま結果として出てしまうのです。

正確に言えば、『曹全碑』の臨書でも、『乙瑛碑』の臨書でも、同様の事が起こっている筈なのですが、さっきも書いたように、それらの場合、目につきやすい際立った特徴に誤魔化されて、気付きにくくなっているのです。


そう言った意味では、この『史晨前後碑』は自分の臨書の弱さ、認識の甘さを自己判断するための材料になってくれる、と言えるかもしれません。


この碑の臨書が

「何だかサマにならないなぁ・・・」

と感じるようであれば、それは間違いなく、

「自分自身では気付いていなくても、『曹全碑』や『乙瑛碑』での臨書でも同様の問題点を抱えている。」

という事を意味している筈ですから。


この碑は銘文自体がそれほど長いものではないので、慣れれば一日で一回全臨出来るでしょう。

その名のとおり、『前碑』と『後碑』の二碑から成り、『後碑』の文字の方が『前碑』のそれよりも少し大きくゆったりしています。


「ゆったり」と見せている理由はどこにあるのでしょうか。


書では、この「ゆったり」という形容がよく使われますが、それを敢えて具体的に説明しようとするならば、それは字の内部の空間が広く取ってある、と言えるかもしれません。

字の大きさはその字の外郭線によって決定されるわけですが、字の大きさ自体が同じなのであれば、その内部の空間を広く取った方が、見た目には大きくゆったりと見えます。

これとは反対に、内部の空間を狭く取れば、その字は引き締まった姿となります。

これは「求心性が高い」などという形容をされる姿ですね。


勿論、話はそれほど単純ではないのですが、この認識は『前碑』と『後碑』とを比較してみる場合の一助になると思います。


私の中で、八分隷の字形の典型として捉えているものは、他でもないこの碑の字です。

前回の『乙瑛碑』の時の話と違うようですが、字形の典型として捉えているのはこの碑です。

この碑を典型としてイメージした上で、それとの比較の上で『曹全碑』や『乙瑛碑』などの他の碑のイメージを自分の中で位置付けています。


『史晨前後碑』、一筋縄ではいきませんから、地味だからといって甘く見てかからないで下さいね。


次回は何の話にしましょうか。

というよりも、次回はいつになるのか、という方が問題ですよね(苦笑)

なるべく間が開き過ぎないように頑張ります。

それではまた。

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2006年10月16日

乙瑛碑

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今日は前回に続き「臨書のすすめ 隷書」です。

今回は『乙瑛碑』を取り上げます。


今回も「何から始めれば?隷書の場合」の回と内容が重複してしまう部分もありますが、お許し下さい。


二玄社『書道講座 隷書編』を読んで

「おぉっ!なるほど!」

と思った私が、その後しばらくひたすら『乙瑛碑』の臨書に明け暮れた、というのは「何から始めれば?隷書の場合」の回でも書きましたね。


前回取り上げた『曹全碑』を見慣れた目でこの『乙瑛碑』を見ると、随分と力強い印象を受けると思います。

これは『曹全碑』と比較すると、筆画が太めで、左右への払いの伸ばし方が控えめであること、などからくるものだと思います。

どっしりとした構えの力強さは、漢隷八分中でも随一と言って良いでしょう。


書道講座』の解説を読みながら、一字一字、一点一画を丁寧に観察していくと、そこには極めて理知的で用意周到な文字造形が成されている事に気が付かされます。

しかも、その理知的で用意周到な造形が、少しも嫌味に感じることなく、自然に達成されている事には驚きを禁じ得ません。

その辺りに気が付くと、西川寧氏が『書道講座』の中で、隷書の解説に『曹全碑』でも『禮器碑』でもなく、この『乙瑛碑』を選んだ理由も、次第に見えてくるのです。

この書が持つ強靭なまでの構築性は、良くも悪くも叙情に流れやすい我々日本人にとっては、恐らく最も距離の隔たりのある造形感覚だと思いますが、だからこそ、一度じっくりと取り組んでみる必要があるのではないでしょうか。


公募展の会場やネット上のHP、ブログなどで、この『乙瑛碑』の臨書を、勘違いしただけのただの

「ヨタヨタのデレデレ」

として書いているものを時々見かけますが(苦笑)、それらはただ単に『乙瑛碑』と同じ文字が配列されているというだけで、この『乙瑛碑』の持つ芯が全く見えていないとしか言いようがありません。


我々日本人は、「ヨタヨタのデレデレ」の造形を目にすると、すぐに「味わい深い」とか「味がある」などと表現して分かったような気になってしまう悪い癖がありますが、本物の「崩れ」や「揺らぎ」や「歪み」というのは、そんなものとはまったくの別ものです。

ましてやそんな「ヨタヨタのデレデレ」を叙情性と勘違いして悦に入るなどというのは、まったくもって問題外です。


この辺りの話は、「技術って本当にいらないの?」「技術って本当にいらないの?その2」で話した内容とも重なるのですが、「正」を知らずに「奇」を語る事など出来ません。

崩れても揺らいでも歪んでもいない状態というものを知りもせずに、本物の崩れや揺らぎや歪みが持つギリギリのバランスを感じる事など不可能です。

本物を知らないまま、「ヨタヨタのデレデレ」を「味」だの何だのと言って悦に入る事は、本物のダイアモンドの輝きを知らないまま、プラスチックのイミテーションの輝きについて賛美するに等しいと言えるでしょう。


話が逸れてしまいましたが、隷書の持つ構築性や造形の仕組みを学ぶのに『乙瑛碑』は絶好のテキストです。

それほど長い銘文ではありませんので、全臨を繰り返すにも都合が良いですしね。


『乙瑛碑』の臨書によって隷書の骨格を鍛えておくと、他の隷書を書いた時にも、ここで鍛えた骨格の強さが自然と表われてくるものですし、前述の

「ただのヨタヨタのデレデレ」

みたいなものを目にしても、それがまがいものであると瞬時に判断出来るようになっていきます。


前回の『曹全碑』の臨書をする際、この『乙瑛碑』の臨書を繰り返す前と後とで、違いがあるのかどうか、試しに両方をとっておいて比較してみると面白いかもしれませんね。


もちろん今回もひたすら形臨です。


「形臨ばかりを繰り返すと型にはまってしまう恐れがある」

などといった話を何処からか聞きかじってくる人がいますが、前にもどこかの回で書いたとおり、5回や10回形臨を繰り返した程度では、型にはまる事すら出来ません。

ですから安心して形臨を繰り返して下さい。


『乙瑛碑』、面白いですよ。


さて、次回は何の話にしましょうか。

それではまた。

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2006年10月13日

曹全碑

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久しぶりのアップになってしまいました。


今日は「臨書のすすめ 隷書」ということで、『曹全碑』です。

テキストは今回も二玄社『中国法書選』として話を進めます。

『曹全碑』については、「何から始めれば?隷書の場合」の回でも取り上げたので、内容が重複してしまう部分もありますが、お許し下さい。


このブログでは、テキストとして基本的に二玄社『中国法書選』を取り上げていますが、拓本ものの場合、諸本の中でどれをテキストにするかという問題があります。

今回取り上げる『曹全碑』についても当然その問題があるわけですが、ここでは『曹全碑』というと必ず挙がる点について少しだけ、触れておきたいと思います。

この碑の原石は、今日でも西安の碑林博物館に蔵されています。

明末に壊れて碑のほぼ中央部分で二分してしまったらしく、大きく断裂が入っています。

この断裂紋が無い拓が旧拓本になるわけです。


それからもう一つ。

1行目中段の「乾」字の偏が「車」に改刻されている、というのが定説です。


『中国法書選』の底本は、旧拓で、改刻以前のものですが、少々墨の調子が重たいのが難点です。

『書跡名品叢刊』の底本は、拓調では申し分ありませんが、改刻後の近拓本です。

『名品叢刊』の解説では、拓調の優劣により敢えて近拓本を底本に選んだ事が述べられていて、断裂により失われた文字については、その部分のみ、巻末に旧拓本からの抜粋を掲載しています。


私が自分自身で『曹全碑』の臨書を繰り返した時、そのテキストとして使用したのは『名品叢刊』でした。

『名品叢刊』本と『中国法書選』本とでは、その印象は全く異なります。

拓本ものの場合、こういった問題は常に付いてまわるのですが、それがまた面白さにも繋がるわけです。


『中国法書選』をテキストとして薦めておきながら、話が矛盾するようで申し訳ないのですが、『曹全碑』に限らず拓本ものの場合、影印本でかまいませんので、出来るだけ多くの拓調を目にしておいた方が良いと思います。


何から始めれば?隷書の場合」の回でも書いたとおり、八分の頂点として『禮器碑』を挙げる意見は古来からありますが、隷書学習の最初の手本としては、『禮器碑』の筆法は複雑過ぎると思います。

その点、この『曹全碑』は拓が鮮明であることも手伝って字画が明瞭ですし、一見単純に見える線質から描き出される左右のはらいを大きくゆったりと伸ばしたその字形は、八分の典型として学ぶには格好のものと思われます。


「とにかく形臨」「運筆は同じ速度で」

というのは、このブログで今まで何度も繰り返してきた題目ですが、ここでもやはり同様です。


隷書の場合、入筆が逆筆になるので、楷書の場合のように不用意に

「トン・スー・トン」

とやってしまう危険性は少ないかとは思いますが、それでも送筆部の速度のみが急激に上がることのないように、十分に注意して下さい。

書いた紙を裏返して見て、入筆部も送筆部も同じように墨が通っていればひとまず大丈夫でしょう。


形臨については、一人勉強の場合、自分の書いたものと手本とを見比べても、どこがどう違うのかということに気が付くこと自体が、非常に難しい問題になると思われます。

解決策としては、手本を実際に練習する大きさ(最初は半紙4文字大か6文字大)まで拡大して、自分の書いたものと重ね合わせてみる、等の方法が考えられますが、皆さんそれぞれの方法で工夫してみて下さい。


「形臨なんてバカバカしい。自分なりの解釈で意臨するぞ。」

と始めから鼻息荒く意気込む人もいるでしょうが、悪い事は言いませんから止めておいたほうが賢明です。

こんな説教じみた事を言うと、決まって

「清代諸家の臨書した『曹全碑』なんて一つも原本に似ていないじゃないか」

と屁理屈をこねる人がいますが、書法史に名を残すような天才のケースを我々凡人に当てはめてみても何の意味もありません。

それに、彼らは間違いなく、我々の数十倍も数百倍も、地道な努力を積み重ねていますよ。

その積み重ねによって築かれた基礎の上にこそ、それぞれの発展形としての表現が生まれるのです。

この際、浅はかで即席な考えは捨ててしまいましょう。

それが結果として、一番の近道だったりするのですから。


逆筆などの具体的な技法の詳細については、最近では様々な技法書もあるようですので、ここでは触れません。

ただ一つだけ。

我々のように楷書で育ってきた人間にとって、隷書の造形は全く異質の世界です。

特に横画については、強い右上がりの感覚を、心底まで体が覚えこんでしまっている人が殆んどだと思いますので、横画を引く際には、最初は右下がりに書くくらいの意識で丁度良いと思います。


『曹全碑』、見なくても書けるようになるくらいまで頑張って下さい。

さて、次回は何の話にしましょうか。

アップする度に「久しぶり」なんて事にならないように出来るだけ頑張りますので、気長にお待ち下さい。

それではまた。

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「一言書いてみたいんだけど、みんなに読まれてしまうコメントに書くのは何だか気が引ける・・・」

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という方、また、通信添削について御質問のある方は、下記のアドレスまで御意見御質問をお送り下さい。

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