2008年03月30日

真草千字文

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今回は「臨書のすすめ 草書」で智永『真草千字文』です。

この書は名前のとおり草書だけではないんですが、今回は「真草」のうち、一応「草」としてここに取り上げました。


以前「本」のカテゴリーで「文庫本の実力。その4」として文庫本の千字文の解説書を紹介しましたが、書を学ぶ人にとっての千字文と言えば、何と言っても先ずはこの智永の千字文でしょう。

それくらい有名なものですし、中には、千字文とはこの書の事だと思い込み、元々千字文という文章があるという事を知らない人もいるかもしれません。

本当に智永筆かどうかについては異説もあるようですが、何れにせよこの書が優れたものである事に違いはありません。


日本にある墨蹟本については私は長い間てっきり真蹟かとばかり思い込んでいたのですが、双鉤填墨という説もあるようですね。

もう今から7〜8年も前になるでしょうか。

サントリー美術館(今の場所に移るずっと前の話ですが)で開催されたある企画展で、墨蹟本の『真草千字文』が展示された事があったのですが、確かその時の図録の解説に、「極めて精巧な双鉤填墨である」という内容の事が書いてあったような気がします。(今その図録が手元に無いので確認出来ません)

その時その解説を読んでとても驚いたのを覚えています。

今回この記事を書くにあたり、改めてその事について色々と検索してみましたが、納得のいく結果が得られませんでした。

御存知の方がいましたら教えて下さい。


さて、この『真草千字文』、学書のテキストとして書かれたものだとされていますが、成程確かに一文字毎とても丁寧に書かれていますし、上下左右との空間的な連動関係が殆んど無い分だけ、「草書体」を学ぶには正に格好です。

字形のバランスの取り方も羲之の草書などよりもずっと単純明瞭ですから、その点も初学者にとっては分かりやすく好都合です。


但し、先程あえて「草書体」と書きましたが、そもそも書とは本来、上下左右との空間的連動関係ありきでその姿を現すものですし、草書の場合は特にその傾向が強くなります。

一字毎の字形もその空間的連動関係によってこそ導かれるものなのであり、本質的にはそれを無視した理解などあり得ません。

ですから、この書をどれ程学んだとしても、その点だけは決して忘れてはいけません。

その意味ではこの『真草千字文』だけ学び続けてみても片手落ちになる危険もあるわけですが、既に紹介した『書譜』や『十七帖』などと併せて学べば大丈夫だと思います。


この辺の話というのは、なかなか文章として伝えにくい部分です。

少しずつでも書いてみようと思いつつ、どのように書けば良いかを考えていると気が重くなってきて、ついつい先延ばしになってしまいますが、そのうちに気合いを入れて頑張ってみましょう。(最近「そのうち」ばっかりだよね。とか言わないで下さいね。)


因みに初学者にとって何より一番有難いのは、「草」の隣に「真」が書いてある事かもしれません。

「真」とは今で言う楷書の事ですが、この書の「真」は今日の目には楷書というよりもむしろ行書として映るかもしれませんね。

それはともかく、草書の隣に並んで書いてあるので、草書を書きながら

「これ、何て字だっけ?」

といちいち悩む必要がありません。

まぁ、楽が出来るという事は、その分だけ勉強しないでも済んでしまうという事なので、良かれ悪しかれですが(苦笑)


テキストはいつもどおり二玄社『中国法書選』を挙げておきますが、『中国法書選』では墨蹟本の他に「関中本」と呼ばれる拓本ものと、2種類出ていたような気がします。(違っていたらごめんなさい。)

どちらを選ぶかという話になりますが、せっかく墨蹟本があるのですから、先ずは墨蹟本の方を選んでみては如何でしょうか。


臨書の際のポイントとしては、

「速く書かない事」

に尽きます。

「ゆっくり」というよりも「ゆったり」と表現した方が適当かもしれませんが、とにかく運筆がチャッチャカせかせかしていたのではいけません。(これは別にこの『真草千字文』に限った話ではありませんが。)

これについては『書譜』や『集字聖教序』の回でも同様の話について説明しているので、そちらを読んで下さい。


書譜』ほどではありませんが、字数もたっぷりありますから(何と言っても「千字文」ですからね)、慌てず急がずじっくり時間をかけてやってみましょう。


ということで今回はここまで。

それではまた。

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初めてこのブログを読まれた方へ。

いらっしゃいませ。

あれこれ思いつくままに書いているので、書道独特の専門用語や人名などの固有名詞に関しては、その都度解説を付ける事はしていません。

初心者の方や学び始める以前の方には難解な部分も多かったかもしれませんが、お許し下さい。


「一言書いてみたいんだけど、みんなに読まれてしまうコメントに書くのは何だか気が引ける・・・」

という方や、

「何だか下手な事を書いたら説教されそう・・・」

という方、また、通信添削について御質問のある方は、下記のアドレスまで御意見御質問をお送り下さい。

誹謗中傷を目的としたような常識に反するもの以外、お返事させていただきます。

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定期的にアップ出来ているわけではありませんが(正直言ってサボりがちです)、よろしかったらまた覗きにいらして下さい。

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2007年05月22日

十七帖

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久しぶりに「臨書のすすめ」です。

今回は「臨書のすすめ 草書」として、王羲之の『十七帖』を取り上げます。

テキストはいつもどおり二玄社『中国法書選』でかまいません。


さて、今回の『十七帖』ですが、これは王羲之の尺牘を集めたものです。

『十七帖』という名前ですが、17通の手紙が集められているというわけではなく、冒頭部分が「十七〜」から始まっているところからそう呼ばれています。

いつもそうですが、この辺りの解説はわざわざこのブログで書かなくても、テキストの解説にも書いてありますし、調べようと思えば詳しく説明したHPやブログをネットでいくらでも探せるでしょうから、これ以上は割愛しましょう。


このブログでは「臨書のすすめ 草書」として、既に『書譜』を紹介しています。

書譜』の臨書をしっかりやっておいた人であれば、この『十七帖』も、後述の点さえ注意すれば、それほど問題無く取り組む事が出来ると思います。


この『十七帖』、有名な拓本としては上野本と三井本があります。

『十七帖』の臨書というと、このどちらの拓本から始めるのが良いのかというのが必ず取り沙汰される問題で、多くの場合、完本である三井本を薦めているようなのですが、私としては敢えて上野本をお薦めしておきます。

三井本には、転折部などで筆を一度離してから入れ直しているかのように見える、ちょっと変わった刻法がなされている部分があちこちに見られ、これらは断筆などと呼ばれていますが、この断筆の部分が、初学者が一人で学ぶにはその解釈が少々厄介かと思うからです。


実は、『書譜』をよく見ると、これによく似た書き方が実際にされている部分が時々見られますが、だからと言ってその事を挙げて、三井本に見られる断筆が全て実際の筆の動きを忠実に刻したものだと考えてしまうのは余りに早計です。

その辺りも含めて、この断筆の扱いについて一つ一つ説明してくれる人がいれば話は別ですが、「臨書のすすめ」で視野の中心に据えている独学者の方にとって少しでも学びやすいものをと考えた場合、三井本を先にすることには躊躇せざるを得ません。


それでも、

「三井本なら完本なんだし、それからやって何が悪いの?」

という意見はもっともですし(上野本には一部欠落部分がある)、どちらからやるにしても、結局両方やった方が良いのは言うまでもありませんので、三井本からやりたいという方は、それで何の問題もありません。

ただ、断筆の解釈に注意が必要であることは確かですので、三井本からやりたいという場合には、その辺りを念頭に置いておきましょう。


この『十七帖』を臨書した後で、再度『書譜』を臨書し直してみると、孫過庭がどれ程に王書をよく学んでいたのかがよく分かりますし、その上での両者の違いといった部分も見えてきます。

そういった目で、もう一度『書譜』を臨書してみるのも無駄ではありません。

お薦めは

「『書譜』の中に『十七帖』のそっくりさんを探してみる」

という方法です。

この方法は単純ですが一番手っ取り早いですし、得るものも多いと思いますから是非お試し下さい。


今、簡単に「王書」と言いましたが、

「王書の真面目は何処に求めたら良いのか?」

というのは極めて難しい問題ですから、このブログで簡単に取り上げられる範囲を遥かに超えてしまっていますし、

「孫過庭が学んだ王書とは一体どのようなものであったのか?」

という問題もありますが、少なくとも、この『十七帖』のような拓本が、王書として伝えられ、その時代毎の人達に学ばれてきたという事は事実でしょう。(孫過庭が実際に『十七帖』を学んだかどうかは問題が別ですが)


ですから王書の真面目を考えてみる時には勿論ですが、各時代毎の王書との関わり方や捉え方を考えてみる場合にも、彼らが接してきたであろうこのような拓本について、十分に理解しておく事は極めて重要です。

その意味では話はこの『十七帖』に限ったものではないわけですが、草書の典型としてだけではなく、王書の典型としても、その入り口として避けては通れないのが、この『十七帖』だと思います。


じっくり時間をかけて取り組んで下さい。。


久しぶりの「臨書のすすめ」でした。

また、あまり間が空き過ぎないうちにお届け出来たらと思います。

それではまた。

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2006年09月19日

書譜

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今回は孫過庭『書譜』です。

草書の1回目ということで、実は『書譜』にするか、王羲之『十七帖』にするか悩んだのですが、字数が圧倒的に多いことと、拓本ではなく墨蹟であること、という二点から、『書譜』を選びました。


他の回でも書きましたが、私の場合には、草書の臨書は『書譜』から始めました。

これまた師からの指示でしたので、『書譜』を選んだ理由など何もありません。


実は「臨書のすすめ」というタイトルで書き始めた時、行書と草書についてはとても悩みました。

というのも、正直なところを言えば、行・草に関しては

「一人勉強は無理なのではないか?」

という気がしているからです。


行・草は単純に筆法だけに目を向ければ、楷書に比べて遥かに単純です。

しかし、実際に書く段になると、一点一画止まりながら、その長短や大小などを自分自身で確認しながら書き進めることの出来る楷書に比べて、行・草の場合にはそれが許されません。

しかも、文字造形のバランスを成立させている要素が極めて複雑な為、古典と呼ばれる名帖に初学者がどれほど目を凝らしてみたところで、どこがポイントなのかが、恐らく全くと言って良いほどに分からないであろうと思われるからです。


古来書聖と呼ばれる王羲之ですが、初学者が『蘭亭叙』を見た時に感じる正直な感想とは恐らく

「こんなに曲がったり歪んだりしているのに、どこがそんなに上手いの」

といったものでしょう。


それでも行書であればまだ、多少でも自分の文字造形の感覚に照らし合わせて見ることが出来るかもしれません。

例えその見方がどれほど見当違いであったとしてもです。

ところが草書の場合、

「そこに書かれているものが上手なのか下手なのか」

という事を感じることすら出来ないと思われます。


現代の人達にとって、草書はあまりにも日常とかけ離れた書体となってしまっているので、草書を目にする機会など殆んど無いまま生きてきます。

それでいきなり

「これが『書譜』ですよ。名品ですよ。」

と言われても、

「はぁ・・・そうですか・・・」

としか言いようが無いはずです。


「この書のこの文字はこの部分がこう曲がっているからこそ、バランスが保たれている。」

「この文字のここがこの長さだからこそ、この空間が生かされる。」

といったようなポイントの解説を、一つ一つ聞いた上で臨書をすることで、

「なるほどなぁ」

と感じながら、見る目を養っていく。

という手順で学ぶ事が望ましいと思うのです。


一人勉強の場合、それが出来ません。

かと言って、このブログでその具体的なポイントを、一字毎に詳細に解説していくことは正直な話ちょっと無理です。(そういう内容を目指して始めたものではありませんのでごめんなさい)


色々と考えたのですが、それでも最近は具体的な臨書のポイントを解説した本もあるようですし、今までこのブログで繰り返してきたとおり

「とにかく形臨」

に徹してもらうことで、少しでもポイントに近づいていただけると信じ、話を進めることにしました。

「そこに書かれているものが上手なのか下手なのか」という事を感じることすら出来ない、という点を逆手に取って、「素直に見たままを書くしかない」という利点にする為にも、とにかく形臨です。


ただし、一つだけ覚悟して下さい。

直線を主とした筆画によって造形が構成されている楷書に比べて、曲線を主とた筆画によって構成されている行・草書の場合、自分で書いたものを自分自身で添削する難しさは桁違いに難しくなります。

余程注意深く自己添削しないと、せっかくの臨書の意味が無くなってしまいますので注意して下さい。


草書でも基本はやはり

「同じ筆圧で同じ速度」

で書くことです。

特に、行・草書で問題になりやすいのが、転折部、つまり曲がる部分です。

次のサンプルを見て下さい。

サンプル

上はA〜B〜Cと、途中で筆が止まることなく、同じ筆圧のまま書かれています。

下はA’B’C’だけに筆圧が強くかかり、その間がすっぽ抜けています。


同じサンプルを裏から見た画像を見て下さい。

サンプル

今お話したことがよく分かるはずです。

そして、B’で一度、筆が止まってしまっています。

これではいけません。

全ての転折がBのようになっているわけではありませんが、楷書とは違う、ということを肝に銘じて下さい。


それから先程

「行・草書の場合、自分で書いたものを自分自身で添削する難しさは桁違いに難しくなります。」

と言いましたが、その際のポイントを一つだけ。


皆さんついつい、自分の今書いた黒い部分にのみ注意が集中してしまいがちですが、文字造形によって生まれた白い部分に注意を払って下さい。

例えばひらがなの「の」で考えてみます。

サンプル

上のサンプルは小学生が書いた「の」を加工したものです。

「の」の字形ではなく、ピンクの部分に注目して下さい。

左の「の」と右の「の」とではピンクの部分の形が全く違っていることが分かると思います。

「の」を書こうとするのではなく、ピンクの部分の形に細心の注意を払いながら書くと、結果として、書き上がった「の」の形が全く変わってくるのです。


この感覚は慣れていない人には始めのうちは少々難しいかもしれませんが、草書に限らず全ての場合に当てはまる極めて重要な感覚なので、この機会に是非体得してしまいましょう。


『書譜』は極めて字数が多いので、ちょっとやそっとでは全臨出来ないと思いますが、だからこそ、頑張った後には多くの成果が待っているはずです。

その為にも、自己添削は厳しく、しっかりとやって下さい。


今回は話が随分と脇道へ逸れてしまいました。

さて、次回は何にしましょうか。

それではまた。

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という方や、

「何だか下手な事を書いたら説教されそう・・・」

という方、また、通信添削について御質問のある方は、下記のアドレスまで御意見御質問をお送り下さい。

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