2007年07月05日

処方箋

これまでの記事の一覧はこちらへ
記事の一覧です

通信添削についてはこちらへ
通信添削について』

メールによる御質問はこちらのアドレスへ
nonbirishodo@mail.goo.ne.jp

----------------------------------------------------------

以前、こんな事がありました。

私が書を教えている教室には子供も大勢通ってきているのですが、ある日の稽古中、ある子供の母親がやってきました。

表情からすると、どうやら何か怒っているようです。


「何だ?怒られるような覚えなんて無いぞ・・・」

と思いながら挨拶をすると、


母親「先生!どういう事ですか!」


・・・いきなりきましたねぇ・・・(苦笑)


私「どうされましたか?」

母親「これを見て下さい!」


そういって母親が取り出したのは、私が書いた子供の手本でした。

私「はぁ・・・(何のこっちゃ?)」


母親「同じ課題の手本の筈なのに、どうしてこんなに違うんですか?」


この母親の子供というのは、実は双子だったのですが、母親は双子それぞれの為に私が書いた手本を見比べて、その違いに愕然としたらしいのです。

確かにそれら2枚の手本は、同じ文言ながら太さも大きさも全く違うもので、母親の言うとおり同じ課題とは思えないようなものでした。


母親「同じ課題なのにこんなに違っていて、これで手本としての意味があるんですか?子供はどちらを信じて書けばいいのか分からなくなってしまいますよ!」


皆さん、この母親の意見、どう思われますか?



私「(笑)それ、わざとなんです。」

母親「(怒)はぁ?」



話は子供に限った事ではないのですが、書を学んでいる人が10人いれば、10人それぞれその時点で問題とするべき部分が違います。

ですから、こちらから指導する内容も、10人それぞれ違います。

これは当たり前の事ですよね。


例えば、風邪をひいた人が10人いるとすれば、10人それぞれ症状が違うでしょうし、それぞれの症状に対する処方も異なる筈です。

私が教室で教える場合もこれと全く同じで、手本を書く際にも、それぞれの症状に合わせて手本を書くので、結果として全く違う手本のようになってしまう事があるのです。

つまり、手本とは処方箋のようなものなのです。


今回の双子(Aくん、Bさんとします)の場合、Aくんはいつも入筆が大き過ぎるために線が太くなり、字全体が大きくなってしまう、という問題がありました。

一方のBさんはAくんとは反対に、いつも入筆が小さ過ぎるために線が細くなり、字全体が小さくなってしまう、という問題がありました。

双子ながら、正に対照的な2人だったのです。


このような場合、私は

「書いたものがいつも大き過ぎる人には小さめ、いつも小さ過ぎる人には大きめ」

となるように手本を書きます。

つまり、標準的な大きさを100とした場合、Aくんのようにいつも120の大きさで書いてしまう人には100よりも明らかに小さめに、Bさんのようにいつも80の大きさで書いてしまう人には100よりも明らかに大きめに手本を書きます。


今回のような線の太さや字の大きさというのは最も分かりやすい例ですが、実際には人それぞれ、症状が細かく違いますので、それに応じた手本を書き分ける事になります。

勿論、誇張や抑制が過ぎて手本として成り立たないようでは困りますので、手本を書く側とすれば手本として成り立つギリギリのところを見極めなければいけませんが。


今回のAくんとBさんは症状が対照的だったので、書いた手本も対照的でした。

細く小さめなAくん用の手本と、太く大きめなBさん用の手本と、文字通り両極端だったので、それを見た母親が疑問に思ったのでしょう。



教える相手が大人の場合、いつもの私流の理屈で説明し、具体的な修正方法を理解してもらう事も可能なのですが、子供の場合、そうはいかない事も少なくありません。

子供相手に理詰めで説明しても大人のようにうまくはいかないのです。


ですからそのような時には、手本自体を加減する事によって、子供自身に、自分の書いたものと手本との違いを気付いてもらいやすくするのです。

例えば、今回のAくんのようにいつも120の大きさで書いてしまう子供には、標準的な100の大きさの手本を見せるよりも、90の大きさの手本を見せる方が、自分の書いたものと手本との大きさの差がはっきりする分だけ

「ぼくの書いたのは大きすぎる」

と感じてもらいやすくなります。

書いた本人が「大きすぎる」と感じてくれなくては、小さめに修正することなど出来ませんから。


何気に書いてあるように思われがちな手本ですが、書く側は実は色々と考えて書いているんですよ(笑)


そうそう、怒った顔をして乗り込んできた母親ですが、私の説明を聞いているうちに怒りも静まり、最後には納得した様子で

「これからもよろしくお願いします。」

と言って帰ってくれました(笑)



今回の話はここまで。

次回は何の話にしましょうか。

それではまた。

----------------------------------------------------------

初めてこのブログを読まれた方へ。

いらっしゃいませ。

あれこれ思いつくままに書いているので、書道独特の専門用語や人名などの固有名詞に関しては、その都度解説を付ける事はしていません。

初心者の方や学び始める以前の方には難解な部分も多かったかもしれませんが、お許し下さい。


「一言書いてみたいんだけど、みんなに読まれてしまうコメントに書くのは何だか気が引ける・・・」

という方や、

「何だか下手な事を書いたら説教されそう・・・」

という方、また、通信添削について御質問のある方は、下記のアドレスまで御意見御質問をお送り下さい。

誹謗中傷を目的としたような常識に反するもの以外、お返事させていただきます。

nonbirishodo@mail.goo.ne.jp


定期的にアップ出来ているわけではありませんが(正直言ってサボりがちです)、よろしかったらまた覗きにいらして下さい。
ラベル:書道
posted by 華亭 at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック