2006年10月02日

字書(篆書の前に。補足)

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前回まで「字書(篆書の前に。)」として、篆書を扱う際に必要な字書の話をしてきました。

興味の無い方にはさぞ退屈な話だった事と思いますが、それも今回で終わりそうですよ(苦笑)


今回はこれまで話をしてきた中では取り上げなかった本について、いくつか紹介してみたいと思います。

予告したままになっていた

「もう少し簡便な字書」

についても、いくつか取り上げましょうね。




最初はこれ。

この本の優れたところは、『甲骨文編』や『金文編』のページ数が書いてある、という点です。

つまり、この本からそれぞれの字書を辿っていけるので、この本で調べた上で更に調べたい時にはとても便利だと思います。

実はこの本、私は持っていません。

以前、書店でこの本を始めてみた時

「やられた!」

と思いました。

というのも、前回の話のとおり、私の持っている字書には他の字書の該当ページが全て書き込んであって、どの字書から調べても、他の字書も簡単に辿れるようになっています。

しかし、それらの字書を便利に使っているうちに

「どうせここまでやったのなら、自分自身で索引を作って、いっそ自分自身で自分の為の字形字典を作っちゃおうかな」

などと考えるようになっていました。


ソフトウェアの設計やプログラムを組む仕事をしていた経験があるので、

「どのようなデータベースを構築すれば、自分のイメージどおりの索引を作ることが出来るのか?」

そんな事を少し真剣に考え始めた時、この本に出会ったのです。


自分でやろうと思っていた事に非常に近いアイデアで作られた本であることはすぐに分かりました。

その途端、何だか急にやる気がなくなってしまったのです(苦笑)


話が逸れてしまいましたね。

とにかくこの本は、本気で篆書を学び始めようとする人達にとって、その導入として手にするにはとても良心的に作られていると思います。

ただし、字形そのものの収録数はあくまで最低限度でしかないので、全てをこの1冊で済ませるというよりも、この本をきっかけに、これまでこのブログで紹介してきた字書を自分の視野に入れていく、という姿勢が良いかもしれません。

恐らく著者自身も、そうなってくれる事を願いつつ、この本を上梓したように思います。





次はこれ。

この本は、

「難しい話など聞きたくないから、とにかく篆書でどう書くのかを手っ取り早く調べたい」

という人にはお手軽です。

ただしこの本は、著者によって造字された文字について、いちいちその事を明示していない点など、気軽に使えるその分だけ、本来であれば篆書学習の途中で気付くであろう問題点が見えにくくなっています。

この本だけを使い続けても、本当の意味での篆書の知識は身に付かないと思いますので、その事だけは承知しておいて下さい。

ちなみにこの本には、姉妹版として、篆刻の布字に便利なように、篆書が最初からミラーリバースになって書いてあるものがあったと思います。

確かに便利でしょうが、鏡文字で布字する程度の事を面倒臭がっているようでは、いつまでたってもまともな印など彫れないと思いますよ(苦笑)





次はこれ。

この本は『字統』を一般向けにしたような本です。

この本も私は持っていませんので、店頭で内容を確かめた程度ですが、一般的なレベルで使うには、全く問題無いと思います。

が、しかし・・・

私の記憶違いでなければ、この本はそのタイトルどおり、常用漢字について書かれた本ですから、篆書についてちょっと本気で調べようとするには明らかに役不足だと思います。


以前、教室に来ている一人の男性に

「字源について調べられる本はありませんか」

と相談を受けた事がありました。

私は白川氏の著作を中心に、数種類の本を挙げておいたのですが、後日、その男性が買ってきたのはこの『常用字解』でした。




標準清人篆隷字典新装版

標準清人篆隷字典

標準清人篆隷字典』については、私はまだ未見なのですが、『清人篆隷字彙』という大型の字書を再編した本のようです。


清人篆隷字彙』は、清代の諸家に焦点を絞った内容の字書ですが、索引を含めて字書の体裁としての完成度は、恐らくこれまで紹介した本の中で最も高いと思います。

篆書の基準となる小篆を調べる際や、清人の具体的な揮毫例を見るには極めて有用です。

ただし、大型本であり、価格も重量級ですので(苦笑)、全ての人にお勧め出来るわけではありません。


標準清人篆隷字典』が『清人篆隷字彙』の完成度を踏襲しているとすると、内容がとても気になる本ですね。

近いうちに書店で見かけたら、内容をチェックしてみたいと思います。



白川静氏の著作の中で、『説文解字』についての詳細な検討を行ったものが『説文新義』です。

これは『白川静著作集』の別巻として上梓されたものです。

全8巻にも及ぶ大著で、その内容は『字統』を更に詳細に専門的にしたものと思って下さい。

篆書の勉強を始めて暫くの内は、余程の事がない限りこの本の出番は無いと思いますが、参考までに挙げておきました。

白川氏の著作集には、この他にも非常に魅力的で有用なものが多いのですが、あまりに専門的に過ぎるものも多いので、ここでの紹介はこのくらいにしておきます。

興味がある場合でも、購入する際には、出来る事なら自分の目でその内容を確認してからにした方が良いでしょう。



『説文解字』についての研究は、それだけで「説文学」と呼ばれる分野が存在するほど奥の深いもので、我々素人がそう簡単に手を出せるような世界ではないのですが、その雰囲気だけでも知るには『説文入門』という本がお薦めです。

『説文解字』の諸本についての説明などは、我々にも十分に役立つ内容です。

ですが、ここまで行くと「文字学」の領域とはまた違う世界ですので、外からチラッと覗いておくだけにしておいた方が賢明だと思います。


さて、ここまで数回に亘って「字書(篆書の前に。)」として、長話を続けてきましたが、それもあと僅かになりました(笑)

これまで紹介してきたような本のことを、中国では「工具書」と呼びます。

色々な事を調べる際の工具として使う本、という意味です。

私が紹介してきたものは、基本的な工具書の中でもほんの一部に過ぎません。

ところが、我々素人にとっては、どのような工具書があるのかを知る事自体、難しい問題となってしまうのが現実です。

そこで、「字書(篆書の前に。)」の最後として、次の本を紹介しておきたいと思います。


中国書法史を学ぶ人のために

中国書法史を学ぶ人のために


この本は、その題名どおり、中国書法史を学ぼうとする人達が知っておくべき問題を解説した本なのですが、その中に、中国書法史を学ぶ際に必要となる工具書について説明した箇所があります。

紹介されている工具書の種類やその範囲は極めて広く、圧倒されてしまうかもしれませんが、そのような本があるということを知っているだけでも良いと思います。


今の日本でこのような本が存在しているというだけでも、正直驚きです。

この本を読むと私は、自分自身が「書道教室の先生」という呼び名の上で胡坐をかいているだけの「何も知らない大馬鹿者」のように思えてきます。

何もしらないままでも「書道教室の先生」は出来ますし、実際、世の中の「先生」達は、その殆んどがその呼び名の上で胡坐をかいているだけ、というのが現実でしょう。


でも、このブログでも何度か似たような事を書きましたが、分かっている人間はちゃんと分かっています。

どれが本物でどれが偽者なのかを。


これまで紹介してきた字書についても、こんな字書など無くても篆書は書けます。

でも、分かっている人間が見れば、すぐに分かります。

本当に篆書が分かった人間の書いたものかどうかが。


私は自戒の意味を込めて書いています。

ほんの少しでも本物に近づくために、私達に出来る事。

それは一つしかありません。

手間を惜しまない事。

それだけです。



さて、「字書(篆書の前に。)」と銘打った私の長話もこれで終わりです。

お付き合いいただき有難う御座いました。

みなさんの参考になれば、こんなに嬉しい事はありません。


さて、次回は何の話にしましょうか。

それではまた。

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初めてこのブログを読まれた方へ。

いらっしゃいませ。

あれこれ思いつくままに書いているので、書道独特の専門用語や人名などの固有名詞に関しては、その都度解説を付ける事はしていません。

初心者の方や学び始める以前の方には難解な部分も多かったかもしれませんが、お許し下さい。


「一言書いてみたいんだけど、みんなに読まれてしまうコメントに書くのは何だか気が引ける・・・」

という方や、

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誹謗中傷を目的としたような常識に反するもの以外、お返事させていただきます。

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定期的にアップ出来ているわけではありませんが(正直言ってサボりがちです)、よろしかったらまた覗きにいらして下さい。
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posted by 華亭 at 20:49| Comment(0) | TrackBack(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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