2011年05月15日

縦書きについて

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以前このようなコメントを頂きました。


「縦書きの起源について調べたんですが、納得できる説明が見当たりません。先生は縦書きについて何か考察を持っていらっしゃいますか?」


この御質問に対し、私は極めて簡略に以下のように回答しました。


「早速ですが、物理的な問題ではないかと思います。

甲骨文字の殷代まで遡った時、亀甲や獣骨に文章(文字ではなく文章)を刻む際、卜占の内容上から左右対象に刻む事も多く行われましたが、亀甲の場合特に、見た目に左右対象とするには亀甲自体を縦向きにした方が理に適っていますし、縦にして縦書きする方が行を長く使えるという意味からも適していたでしょうから。

私見としては、甲骨文字や西周金文の時点ではまだ文字(文章ではなく文字)そのものの造形に縦書きを志向する姿をはっきりと見る事は出来ませんので、文字そのもののから縦書きの起源を考えるには少々無理があるかと思います。」


してはみたのですが、簡略に過ぎたのか、その後の御意見を頂けなかったので、納得して頂けたのかどうかが分かりません。


その後、自分でも気になり少しネットで調べてみたりもしたのですが、確かにどうにも納得しきれない説明ばかりです。

そこで、もう一度ここで私見をまとめておく事にしました。


ここでは主として中国の甲骨文と、比較対象として古代エジプトのヒエログリフを扱いますが(古代エジプト文字については私は完全に素人ですが)、先ず前提として、どちらの場合も、単体の文字そのものに縦書きもしくは横書きを志向する部分は無かったと言ってよいと思います。

それはどちらも縦書き横書き両方の表記が可能であることからも分かります。


縦書きか横書きかという問題は、当然の事ながら文字単体では起こり得ません。

文字が創造されていく過程に於いて、語彙化、更には文章化された状態での表記は、文字単体の創造よりも最初こそ一歩遅れたかもしれませんが、次第に同時進行的に進められるようになっていったと思われます。

但し、その時点では縦書き横書きどちらにもなり得る可能性があった筈です。


結果として甲骨文は縦書きが、ヒエログリフは横書きが定着するのですが、縦書きか横書きか、これは2つの問題に起因すると思われます。

先ずは文字を刻む対象物です。


ヒエログリフのように壁面や棺に刻まれる場合、特に壁面の場合には、それが長文であればあるほど、縦に並べるよりも横に並べる方が刻むのに楽になります。(実際、初期の短文の場合、縦書きの例も多く見られる。)

横に並べるのであれば、刻む人間は同じ高さのまま横に移動していけば済むのですから。

文字の大きさが甲骨文と比較して遥かに大きい(と言うよりも、甲骨文が極めて小さい)事も無関係ではないでしょう。

両者では文字を刻む際の肉体的な動作が全く異なりますから、ヒエログリフの場合、作業として合理的な方法が考慮された度合いも、甲骨文の場合以上に高かったかもしれません。

当時文字を扱う事の出来る人間は極めて限られた者であったでしょうが(これは甲骨文の場合も同様)、仮に刻まれたものを「読む」という視点に立った場合にも、横に並べる方が(視線の高さを変えずに済むから)読み易いと判断されたとしても不思議ではありません。


棺の場合には、その外形を考えるとその側面は言うまでもなく横長ですから、そこに文字を並べようとした場合、外形に即した形で横に並べるというのは極めて自然な感覚に思えます。

これらの合理性が、いつしかヒエログリフの横書きを定着化させるきっかけになったのではないでしょうか。

つまり、対象物に依存する形で横書きが選択されたのではないかと思うのです。(碑版に横書きされたものは、既に横書きがある程度定着化した後ではないかと思います。)


今回の主題である甲骨文の場合、もう少し事情は複雑なように思います。

2つ目の問題である、文章の内容という要因が絡んでいるからです。

甲骨文による文章は、卜占をその目的としましたが、その際、内容的に肯定的なものと、それと対称させる否定的なものと、その両方が刻まれる場合が少なくありませんでした。

この内容的な対称性を視覚的にも実現しようとした時、文章を刻む対象物である亀甲自体を縦向きにして、その中心線の右と左に対称的な内容を刻み分ける、という方法は実に必然的な感覚と言えるでしょうし、今で言う「行」の長さを有効的に使おうとするならば、縦向きにした亀甲に対しては文字を縦に並べる方が理に適っています。

何故なら亀甲自体を縦に向けたら縦長になるのですから。


つまり、甲骨文の場合(具体的には亀甲の場合)、その内容と刻む対象物という2つの要因に即した方法を採ったら、それが縦書きだったという事なのではないでしょうか。

その方法を繰り返すうちに、次第にそれが定着化していったのではないかと私は考えています。


因みにこの内容的対称性に即した視覚的対称性は、獣骨の場合には見られません。

獣骨自体が左右対称形ではないからです。


中国文字の縦書きの起源として木簡や竹簡の使用を挙げて説明しているものがありますが、木簡や竹簡が記録媒体として本格的に使用されるようになるのは、縦書きが既に完全に定着化した後と考えられるので、それを起源の理由とするのはおかしいと思います。

それでは殷代青銅器銘文が既に縦書きである事の説明がつきません。

甲骨文の草稿として既に木簡や竹簡が使用されていたという見解もありますが、「木簡や竹簡を手にして書こうとすると、縦向きの方が安定するから。」という理由で縦書きの起源を説明しているのも今一つ納得出来ません。

何も不安定になる手に持って書かずに、置いて書けば縦でも横でも書けたはずなのですから。


言うまでもなく、草書や行書は縦書きが完全に定着化した後に発生した書体ですから、造形そのものに縦書きを強く志向する面を持っていますし(つまり、縦書きしやすいように造形されている)、中国で縦書きが完全に定着化した後にそれらを輸入する形で文字を手にした日本人が、最初から縦書きを主体としたのも当然の結果だったと言えるでしょう。

日本人の生み出した仮名が、完全に縦書きの為の文字造形をとっている事も、それが草書体から生まれた事を考えれば至極当然です。

「連綿させたいから縦書き」

なのではなく、縦書きだったからこそ、仮名は連綿性が極めて強くなったのです。

これは身近な例ではアルファベットの筆記体が横書きを前提に横への志向を強めた造形になっているのと同じ事ですね。


と、ここまで色々と考えてきましたが、実際のところ最初は深い考えがあったのではないと思います。

偶然そうなった、と言っては乱暴に過ぎますが、その偶然に私なりの理屈を付けてみたのが今回の話です。

縦書きの起源について本格的に考察するには、初期楔形文字が縦書きされていた理由を解明しなければならないのでしょうが、門外漢の私には正直荷が重過ぎます。

ですから、今回はあくまで甲骨文を中心に考えてみました。

完全な私見ではありますが、御質問頂いた方に御一考頂けたらと思いますし(その方が再度このブログを読んで下さる可能性は低いのかもしれませんが。)、皆さんの御意見も御伺いしたいと思っています。

私が不勉強で無知なだけで、既に確固たる説が存在するのでしたら、御教示頂けましたら幸いです。

実は縦書き横書きの問題の他に、「右から左に書くか、左から右に書くか」という問題もあるのですが、それにはまた別に一考察しなければなりませんので、またいつの日か、書く気になったら書いてみたいと思いますが、暫くの間はこの手の真面目な問題は書く気がしそうにありません(笑)


今回はこれまで。

真面目な内容は書いていて疲れます(笑)

それではまた。

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ラベル:書道 通信添削
posted by 華亭 at 05:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
縦書きにつてい以前質問したものです。
返信しなかったのは、イマイチ腑に落ちなくて放っていました(すみません)。
未だにすっきりした縦書きの理由は見つかっていません。
また、縦書きの疑問とともに、
象形文字で、例えば『象』という文字が頭が上でお尻が下に書かれているのも疑問のひとつです。
頭を上にして頭から下に向かって胴を描く→上から下に書く などと想像しています。
時々覗いています。これからもよろしくお願いします。
Posted by 縦書き at 2011年08月19日 14:23
縦書き様

コメント有難う御座います。

あれ以来、私も時々縦書きについて考えてみてはいるのですが、やはりどうにもすっかりして頂けそうにありません(苦笑)

どうしても縦書きでなければならなかった理由が見付からないのです。

これは裏を返せば、最初は縦横どちらでも良かった、という事を意味するのではないかと思うのですが、それでは納得いかないですよね(笑)

尤も、「縦横どちらでも良かった」ものが縦書きへと落ち着いていった理由として、亀甲に卜占の内容を記述する際、縦書きの方が理にかなっていた、という考えについては、今でもそう思っていますが。

『象』の向きについては更に難しい問題ですね。

甲骨文字で動物を象形したものを見ると多くのものは『象』と同様の向きですが、それに無理矢理理由を付けてみても『鹿』のように胴が縦になっていないものもありますし…

文字発生時からの段階を想像すると、現在我々が見る事の出来る甲骨文字に記述された字形に至る前に、字形がある程度固定化されていくまでの変遷の段階があったはずですが、現時点での史料でその変遷を辿るのは不可能だと思いますし、あれこれ考えてみても結局は推測の域を出る事が出来ないでしょう。

というわけでして、やはりすっきりしません(苦笑)

何か明確な答えが見つかりましたら(考え付きましたら)御教授頂けましたら幸いです。

お役に立てず申し訳ありません。

また何かありましたら御遠慮無く。

それでは。
Posted by 華亭 at 2011年08月19日 15:27
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