2010年12月03日

コンピュータの出番

これまでの記事の一覧はこちらへ
記事の一覧です

通信添削についてはこちらへ
通信添削について』

メールによる御質問はこちらのアドレスへ
nonbirishodo@mail.goo.ne.jp

----------------------------------------------------------

随分前になりますが、「臨書のすすめ」で智永の『真草千字文』を紹介しました。

その中で、

「真跡だと思っていたが、搨模説もあるようだ。」

というような事を書きましたが、先日部屋の片付けをしていたところ、偶然それについての非常に興味深い論考を見付けました。


ニ玄社の『PR書画船 かく!』という小雑誌に掲載されていたもので、魚住和晃氏による「コンピュータが捉えた真草千字文」という論考です。

この『かく!』は1998年6月号で、これが通巻第1号、つまり創刊号となっています。

1998年というと既に10年以上前の話になりますが、朧気な記憶では、創刊のPRに二玄社から1冊送ってきたものだったような気がします。

ろくに中身も見ないまま、10数年間も本棚の中に紛れ込んでいたわけです(笑)

この小雑誌自体、今でも続いているのかどうか分かりませんが、とにかく10年以上も前のものなので、皆さん今更探しようもないでしょうから、ここで概略を紹介してみたいと思います。


その内容ですが、『真草千字文』にコンピュータによる画像処理を施し、その結果を検証する、というものです。

どのような処理かと言うと、先ずは『真草千字文』をスキャニングしコンピュータに取り込みます。

次に、取り込んだ画像を各字毎に縦500横500に区分し、その区分した各部分の濃度を256段階に読み分けさせます。(256段階というのがいかにもコンピュータ的なのですが、それについて話すと脱線し過ぎるので触れません。)

更にその濃度の濃い方を赤系に、薄い方を青系に着色する、という処理をします。


すると、あら不思議。

肉眼では殆ど識別出来ない濃度の違いがはっきりと色の違いとして顕れるのです。


例えば偏から旁にかけて徐々に墨量が減っていく様子は、赤系から青系へと色が変化していく様子としてはっきりと識別出来ます。

側筆になっている部分では、筆先が通った部分は赤系、筆の腹が通った部分は青系として顕れますし、線が交差して墨が重なった部分や筆圧の強弱も、色の変化としてはっきりと識別出来ます。

側筆の例では筆先が通った部分の墨色が濃く、筆の腹が通った部分の墨色が薄いという結果が出たわけですが、これは筆の腹よりも先の方に強い圧がかかっていた事を物語っていると言えるでしょう。

つまり、古来側筆の問題点として言われ続けてきた「筆圧の不均等」を科学的に裏付けした事になりますね。


こうなると直筆の場合はどう見えるのか、更には包世臣の逆入平出ではどうなのか、『書譜』の「節筆」を見たら面白そう、と私の興味はどんどん脱線していきそうになるのですが、今回の論考はあくまでも『真草千字文』についてなので、我慢するしかありませんね。


さて、『真草千字文』は補筆補墨が行われている箇所があり、それが搨模説にも繋がるらしいのですが、この分析によると、補墨が行われた箇所も一目瞭然で、それがあくまでも補墨である事を如実に顕しています。


この論考では比較の為に、搨模本である事が明らかな『喪乱帖』にも同様の処理を施しているのですが、こちらは先述のような濃度の変化は殆ど見られずに全体的に平坦で、その代わり字の輪郭部分だけが一様に青系を示しています。

つまり、籠字を取って中を塗った様子がはっきりと映し出されているのです。

その様子は先の補墨の場合とはまったく異なるもので、それは議論の余地など全く無い程にはっきりとしています。


このような検証の結果からこの論考では、『真草千字文』が智永の手によるものかどうかは別としても、少なくとも搨模本ではなく真跡本である、と結論付けています。


「成程ね〜。」

と感心するしかありませんでした。


これ程の検証が10数年も前に既に行われていた事など、私は全く知りませんでした。(皆さん御存知でしたか?)

書の場合、このようなコンピュータを使った分析というのはこれまで殆どされてこなかったのではないでしょうか。(それともやはり私が知らないだけなのでしょうか?最近の状況を御存知の方がいましたら御教示下さい。)


書の世界の場合(書の世界に限らないかもしれませんが)、基本的に偉い先生達は完璧にアナログ世代ですから、コンピュータを使った分析といった発想自体、浮かびにくいだろうと思います。

今回のこの論考のように、どのようにすればコンピュータの利点を活用出来るのか、といった着想は、コンピュータを全く知らない人間にはなかなか難しいだろうと思うからです。


尤も今回の論考も魚住氏個人の研究結果ではなく、画像処理研究の専門家である多田幸生氏の全面的協力が元になってはいるようなのですが、このような柔軟な着想でコンピュータと書とを結び付ける事の出来そうな世代が書壇の中堅的存在となりつつあるのも事実なので、今後このような分析や研究はどんどん増えていくのではないでしょうか。


その時には、今までの書に於ける常識や書道史が根底から覆されるような大発見があるかもしれません。

何だかワクワクしますね。

一番の問題は、そのような発見がされた場合、書壇がそれを素直に受容出来るかどうかなのかもしれませんが(苦笑)


という事で今回はこれまで。

それではまた。

----------------------------------------------------------

初めてこのブログを読まれた方へ。

いらっしゃいませ。

あれこれ思いつくままに書いているので、書道独特の専門用語や人名などの固有名詞に関しては、その都度解説を付ける事はしていません。

初心者の方や学び始める以前の方には難解な部分も多かったかもしれませんが、お許し下さい。


「一言書いてみたいんだけど、みんなに読まれてしまうコメントに書くのは何だか気が引ける・・・」

という方や、

「何だか下手な事を書いたら説教されそう・・・」

という方、また、通信添削について御質問のある方は、下記のアドレスまで御意見御質問をお送り下さい。

誹謗中傷を目的としたような常識に反するもの以外、お返事させていただきます。

nonbirishodo@mail.goo.ne.jp


定期的にアップ出来ているわけではありませんが(正直言ってサボりがちです)、よろしかったらまた覗きにいらして下さい。
ラベル:書道 通信添削
posted by 華亭 at 00:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック