2009年01月05日

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先日、「書けない」の回について以下のようなコメントを頂きました。

ところがコメント欄できちんと回答するには余りにも長くなり過ぎてしまうので、勝手ながら、記事として書かせて頂く事にしました。


> 敢えていじわるな質問をします。
> 親指が開いてしまうのは筆の持ち方が悪いからじゃ
> ないでしょうか?
> 幼少の頃から筆をもって高齢になるまで、
> 書いて書いて書きまくる先生は大勢いると思うのですが、
> みなさん親指が開いてしまうんでしょうか?


成程。

確かにこれは尤もな意見ですね。


実は当時の私は「筆の持ち方」が悪かったのではなく、その力の入れ具合に問題があったのです。(因みに当時も今も、持ち方自体は全く同じです。)

まぁ、力の入れ具合というのもある意味では「筆の持ち方」に含まれるので、その意味では「はい。その通りです。」という事になってしまいますが(笑)


書けない」の回ではその辺りについての細かい話はしませんでした。

何故なら、只でさえ苦労自慢のように受け取られてしまいそうな内容でしたから(苦笑)、更にあれ以上詳細な経緯を書く気にはなれなかったからです。

ですがまぁ、今更気にしても仕方が無いので(笑)、今回はその辺りの話をしてみましょう。


当時の私は意図的に、筆を出来るだけ強く持つ事を心掛けていました。

余計で余分な力が入ってしまっている事を承知の上で、ひたすら強く持っていました。

どのくらいの力で持っていたのかと言えば、とにかく目一杯ですよ(笑)

では何故そんな事をしたのかと言うとですね、自分の手を1日でも早く

「書く用の手」

に作り替えてしまいたかったからです。


「書く用の手」

って分かります?

師が筆を持っているところを見ると、その手は正に

「この手は書く用の手だ。」

としみじみ思うのですが、師が数十年かかって作り上げた肉体を、半年とか一年とかいった極めて短期間のうちに手に入れようと、当時の私は本気で考えていたのです。


その為に私が考えたのは、

「先ずは筆で字を書く為の筋肉を1日でも早く作り上げてしまう。」

という事でした。

そこで私は書の練習だけではなく、「筋肉を作り上げる」為のトレーニング(つまりは筋トレ)もやるようになっていったのですが、その方法としてこんな事をよくやりました。


傘(紳士用の大きなもの)の先を下に向けて、柄を筆の持ち方で持ちます。

つまりは傘を筆に見立てるわけですね。

そうしたら、前後左右、右回り左回り、S字にジグザク、と、ありとあらゆる方向に、腕一杯を使うような大きさで動かします。

因みに傘の先は下には着けずに浮かしたまま、動かす速度は例えば右回りの円運動なら1秒間に2回転くらいの速さです。

そしてここからが肝心なところですが、どれ程腕を動かそうとも、傘は柄から先まで常に平行に移動し続けるように意識します。

つまり、手首を使って傘の先だけが動いているような状態なのではダメだという事です。

これ、実際にやってみるとすぐに分かりますが、余程力を入れて持っていないと、傘の先だけを振り回す動きになってしまい、なかなか傘全体を平行移動させる事が出来ません。

傘の代わりにビール瓶(出来れば大瓶で中身入り)の首を持ってやっても同じような筋トレが出来ます。


こんな馬鹿げた筋トレ(苦笑)を

「1日最低30分」

などと自分に課し、実際に筆を持つ前にひたすらやっていたのです(笑)

30分間も休まず続けてやっていると、それだけで右手の親指はクタクタのビリビリですよ(苦笑)

試しに5分間でもいいですから、やってみて下さい。(但しそれ以上やって手を壊しても責任は負いかねますよ(笑))

皆さんの中にも「筆だこ」が出来ている人は少なくないでしょうが、大抵は中指か薬指の横、筆管が当たる部分に出来るでしょう。

当時の私の場合、そこにも出来ていたのは勿論ですが、親指の腹の部分にもカチカチのたこが出来ていました。

こんな事をしてみたところで、本当に「書く為の筋肉」が鍛えられるのか、今考えればはなはだ疑問ですが(笑)、当時の私は真面目に本気で「効果有り」と信じていたのです。


因みに、先に「当時も今も、持ち方自体は全く同じ」と書きましたが、無理さえしなければ、その持ち方で何時間書き続けようが、親指には何も起こりませんよ。

ここでの「無理」とは、大きな字(例えば3尺×3尺や4尺×4尺に一文字)を書こうとする時など、どうしてもかなりの力を入れて筆を持たなければならないような場合を指しますが、筋肉(と言うより筋)が炎症を起こしたままなので、力を入れて持ち続けると、今でもどうしても軋み始めるのです。


> 幼少の頃から筆をもって高齢になるまで、
> 書いて書いて書きまくる先生は大勢いると思うのですが、
> みなさん親指が開いてしまうんでしょうか?

という御質問に対しては、「そんな事はありません」とお答えするしかありませんが、結論を急ぐ前にちょっと待って下さい。


体を酷使し続けるという他の例として、プロスポーツ選手を考えてみましょうか。

確かにプロスポーツ選手の全てが必ずしもオーバーワークによって故障するというわけではありませんが、その一方で実際に故障してしまう選手がいる事もまた事実でしょう。

故障の原因が「フォームによる体への負担」という場合も多いでしょうが、フォーム自体には問題が無い、という場合も少なくないはずです。


それにですね。(話を書に戻します。)


私の場合はたまたま

「親指の力が抜けて開いてしまう」

という症状として顕れましたが、書家と呼ばれるような人達は指に限らず、腕、肩、首、背中、腰、足など、その部位や症状こそ様々ですが、職業病と言えるような持病に悩んでいる人は少なくありません。

親指に限って言っても、親指の形(関節の向き)が変わってしまっている人に私はこれまでに二人会っています。

これらの人達の全てが「筆の持ち方」が原因の故障であるなどとは考えられないでしょう。

要はそういった持病の苦しみを表に出すか否かの問題です。

皆黙っているだけで、その実は何も無い人など殆んどいないのではないかと思います。

表に出すか否かという事で言えば、私も教室で弟子相手にならこんな話など口が裂けてもしませんよ(笑)

だって、わざわざ人様に話して聞かせるような話ではありませんし、話してみたところで、それこそ「苦労自慢」になるか只の「愚痴」になるだけですから。


それなら何故書いたのか?


「自分の意識とは関係無く肉体がストライキする。」

という話を聞いた時、それまで自分の指に何が起こってしまったのか全く分からず心底途方に暮れていた私は、とても救われた思いがしました。

「あぁ、これだ・・・これと同じなんだ。」

と。

原因が分かってみたところでそれだけでは何の解決にもなりはしませんでしたが、訳も分からず途方に暮れたまま苦しんでいるよりは遥かにましでした。

だからこそ、もしも同じ苦しみにある人にとって私の経験談が僅かながらでも役に立てば、と思い、書く事にしたのです。

繰り返しますが、そうでなければこんな話、書きたくなどありません。

書けない」の回の最初に書いたではありませんか。

「『苦労自慢』みたいになってしまってはなはだ見苦しい」

と(苦笑)


話を戻しましょう。

先述のような馬鹿げた筋トレをやりながら、目一杯の力で筆を持ち続け、来る日も来る日もただひたすらに1日14〜16時間書き続けるという生活を想像してみて下さい。

どれ程正しい持ち方をしていたとしても、体の何処かにしわ寄せが来ても不思議ではないと思うのですが。

そもそも本当に筆の持ち方が悪かったら、毎日毎日1日14時間〜16時間も書いてはいられないのではないかと思うのですが。

如何でしょう?


書けない」の回でも書いたように、結果としてこの時の故障が、その後の私に余計な力を入れずに書く術を体に覚えこませる事になったのですが、それはある意味では、

「無駄な力を入れ続けたり、無謀な筋トレなどしてみたところで、『書く為の肉体』に近づく為には決してプラスにならない。」

という事を肝に銘じさせる事にもなりました。

「『書く為の肉体』は書く事によってしか手に入らない」

という至極当然の結論に達するのに随分と大きな代償を払う事になってしまいましたが(苦笑)、仕方ありません(笑)


というわけで、こんな長話で回答になったのかどうか、何とも心配ですが、今回はここまでにします。

回答が長くなりそうな質問の場合、どうぞ御遠慮無くメールを御利用下さい。(メールの使用に抵抗がある方には無理強いはしませんが。)

それではまた。

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あれこれ思いつくままに書いているので、書道独特の専門用語や人名などの固有名詞に関しては、その都度解説を付ける事はしていません。

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定期的にアップ出来ているわけではありませんが(正直言ってサボりがちです)、よろしかったらまた覗きにいらして下さい。

posted by 華亭 at 03:54| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
回答ありがあとうございました。
傘を筆にみたてて特訓していたんですね。
びっくりです。
また疑問点がありましたら質問させていただきます。
Posted by いつも見てます at 2009年01月05日 19:33
少しは回答の代わりになったでしょうか?
また何かありましたらどうぞ御遠慮無く。
Posted by 華亭 at 2009年01月06日 03:39
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